2011年 ベストゲーム

私が選ぶジャイアンツ2011年シーズン・ベストゲーム
『Ball Parkに住むウサギ』で書いた
2011年10月13日の記事です。



「男の意地」

巨人4x−1阪神 (延長10回 東京ドーム)



高橋由伸が初めてサヨナラホームランを打ったのは
2000年6月28日、阪神戦で福原忍投手から
25歳の時。
ミレニアムVと言われた長嶋茂雄監督の時代です。


5−5の同点、9回裏の先頭打者として登場
初球のストレートを鮮やかに打ち砕き、ライトスタンド一直線の弾丸ライナーでした!
お立ち台も今のように派手な演出ではなく、
場内一周もボールの投げ入れもない簡素なもの


初々しい由伸の第一声は
「もう、なんて言っていいかわからない・・」
興奮気味に話す嬉しそうなヨシノブ
若くてハンサムぶりも際立っていました。


2度目は
同じ年の9月5日、シーズンも終盤の広島戦
マウンドには左腕の高橋建投手

カウント、1−3(今風に言うならばスリーボールワンストライク)
バッティングカウントから
外角高めのスライダーを豪快に振りぬき、これまたライトスタンドに文句なしの当たり。
「後ろの松井さんに繋ぎたい一心でした、」
この頃、不動の3番打者だったヨシノブの
控えめな言葉とはウラハラなフルスイングでした!



3度目のサヨナラは
2003年6月1日 阪神戦であのジェフ・ウィリアムス投手から
ライトへ〜打った瞬間にそれと分かる逆転のサヨナラ2ラン
28歳になっていました。


「監督から思い切っていけと言われ、とにかくフルスイングしようと思って打席に入りました」


円熟期に入り、喜びを表しながらも落ち着いた佇まい
控えめな性格の“らしさ”が出たヒーローインタビューでありました。



4度目は
同じく2003年、中日戦、左腕久本投手から

左投手から3回連続のサヨナラHRです。
スライダーを完璧に捉えてまたもやライトスタンドへ
この時も目の覚めるような見事な弾丸アーチでした。
プロ入りしてから最もショートヘアーだった少し太めの、でも可愛いヨシノブ♡→ܫ←♡
「とても嬉しいです、」



あれから8年の歳月が流れ
2011年10月12日
昨夜の東京ドーム

チームでの立場も大きく変わり、不動のレギュラーを外され
代打での打席でした。


5本目のサヨナラホームラン
やはり左腕の阪神・榎田投手から
そしてスライダー、同じくライトスタンドへ


しかし過去4度と大きく違っていたのは
由伸らしい美しいフォーム、流れるようなスイングから生まれた完璧な当たりではなく
ようやくバットに当てたかのような泳いだスイング
最後は右手一本で運んだ執念の一打であったことです。
それはまるで
苦難の道のりそのままの懸命なスイングにも見えました。


この試合
Vを逃したものの
CS進出をかけ両チームが激突した今シーズン最後の“伝統の一戦”でした。
中4日、チームの勝利と自身の最多勝を懸けてマウンドに登った内海哲也
気迫溢れるマウンド上、8回まで1失点に抑える力投を見せますが
味方もHRによる1点のみ
タイガース岩田投手との白熱の投手戦が繰り広げられていました。


すでに127球を投げ、
この回に打席が回ってくる内海には当然代打が出されるものだと思って見ていると
ベンチでバッティンググローブをはめながら
気合の表情を崩さぬ内海の姿


私は、こんなシーンを見るのが大好きです。
テレビの画面を通してであっても
その選手がそのゲームに懸けている気持ち、気迫が溢れんばかりに伝わってきます。


あぁ、最後まで投げるんだな
監督も「お前に任せたぞ、」と言ってくれたんだな
そう思いました。


前記事で、
「選手は駒だけど心を持った駒」
その心を引き寄せる采配をしてほしいと書きましたが
内海の投げ抜きたい強い意志、信じて任せた原監督
選手と監督の心の通い合い、熱い想いが伝わってくるような8回の打席でした。


9回のチャンスも逃し
延長に入り、もしかしたら交代かという空気も流れる中
多分、「内海は行く!」だろうと思いながら見ていると
当然のようにマウンドに歩を進める「背番号26」の姿が。
危なげなく抑え、堂々のピッチング!
本当にその精神力には言葉が見つかりませんでした。


10回の裏
先頭のラミレスがヒットで出塁、この出塁が見事。
出て欲しいところで出る、やはりラミちゃんは素晴らしい〜
代走尚広、最高の場面で最高のランナーがまだ残っていましたね。


谷の送りバント、初球の顔面付近のボールにのけぞりながらファウル
2球目、臆することなくきっちり決めた谷佳知にも大拍手。


1死2塁から、亀井に対して左腕の榎田登板
ここも、慌てず騒がず阪神ベンチの動向を見ながらの余裕がGベンチにはありました。
榎田のコールを受けてから代打鶴岡
代打矢野で勝負をかけてもいい場面ですが、塁を詰められて鶴岡よりも
ゲッツーのないここでの打席を自由に打たせ、
あわよくばヒットあるいは進塁打の考えだったと思います。
鶴ちゃん、思い切り空振って見事な三球三振!


そして次の代打は矢野
監督も敬遠策は当然読んでいますから
2死1,2塁で高橋由伸という場面は充分に頭に入れての選手交代
試合後、
「どんな投手が来ても(左でも右でも藤川球児が来ても)あそこは由伸だなと考えていました」
と語っています。


先頭ラミレスのヒット、代走、送りバント、代打の順番
出された選手がそれぞれに自分の役割を果たしベンチの意図に応え
監督もこれ以上ないと思える悔いなしの采配
誰もが大きく頷けるものでしたね。



そして最後の最後
みんなの頑張り、監督の心の通った采配
何より、延長10回147球を投げぬいた内海哲也の熱投に報いるために


背番号24、代打・高橋由伸の名がコールされました。



東京ドームの大歓声を浴びて打席に入るヨシノブ
「絶対に打ちたい、内海に白星を付けてやりたい、勝ちたい」一心だったと思います。


1球目、真ん中のシュートを見逃し
2球目、大きく外角に外れるボールを見送った後
3球目、榎田投手渾身のストレートが内角に決まりました。
由伸、手が出ません
打ってもファウルになるか詰まるかどちらかだったと思うような素晴らしいボール


あっという間に追い込まれ、絶対絶命
みんなの期待に今日も応えられないのかと不安がよぎり
もう見ていられませんでした。
両目では見られなくて、思わず目を閉じながらも開けながら(どっち?)
必死に手を合わせました。


あとはもう、文字にするのが難しくてなんと書いていいか分かりません。
ベースを一周するヨシノブの姿はかすんでいました。
内海が子供のようにはしゃいでヨシノブに抱きつく姿が嬉しくてまた涙・・


帽子を取ってファンに挨拶する監督
晴れ晴れとした表情ながら
その目は、ほんの少し潤んでいるようにも見えました。


これで終わりじゃないし
この一試合がすべてではないけど
辛いことの多かった今シーズン、こんな幸せなシーンがあるなんて
私にとっても嬉しい嬉しい夜
高橋由伸が「男の意地」を見せてくれた満月の夜でした。