名手の助言

前記事に引き続き読売新聞の特集記事から
(2011月11月10,11日付 込山駿記者)



宮間あや選手と言えば
ドイツW杯で魅せたあの素晴らしいFKの軌道が思い浮かびます。

FKのレッスンを受けたのは12歳の頃

小学5年生の時
草創期の日本女子代表で現在はU-19代表コーチを務める本田美登里さんに
「才能のスケールが大きい」と見込まれ
各地のスクールやイベントに連れて行ってもらった宮間選手には
行く先々で
「ああいう上手な大人になりたい」と感じるような往年のスター選手との出合いがありました。


中でも大きな影響を与えてくれたのが
かつて日本代表でFKの名手と呼ばれ横浜マリノスで活躍された木村和司さんの存在でした。


ゴールへ虹のような曲線を描いたそのキックを見た時
「私もそんな風に蹴りたい!」
見よう見まねのキックは思うように曲がりませんでしたが
コツを教わって蹴ると少しだけ曲がってくれました。
でも喜んで蹴り続けていると、思ったコースに飛ばなくなってしまったそうです。

首を傾げていると
木村さんが声をかけ言ってくれたのが
「そういう曲げ方をする時は枠の外を狙って蹴るんだ、
それぐらいでないとゴールは決まらん!」

という一言でした。


枠外から巻き込む軌道でギリギリに決めるー。
極意の一端を授けた木村和司はこの時のことを
「何を伝えたかは覚えておらん、小学生相手に技術指導なんてほとんどやらんし」

ですが、こうも付け加えています。
「この子なら理解できる、と感じたから教えたはず。
サッカーが好きで仕方ない元気な女の子に会ったことは覚えとるよ」


「和司さんの言葉は、今でもセットプレーで心掛けていることの一つ」
少女には大きな財産となり、今に繋がりました。


今や女子では世界屈指のFKの名手と言われ
位置によって蹴り足を使い分けられるほど
左右のキックの精度に差のないことも知られていますが
そのきっかけは
小学1,2年生の頃、バスケットボール経験者の母・洋子さんから
「どうして左足では蹴れないの?私は左手でもドリブルできたわよ」と言われたこと。

「手と足では違う」
子供心にもそう思いましたが両足を使えた方がいいのも確かだと納得し
その後は左足の練習にも熱が入るようになり
「母の何気ない一言に今は感謝している」のだそうです。


女子ワールドカップ・ドイツ大会
ニュージーランドとの初戦で決めた勝ち越しの右足FK
それは12歳だったあの頃
木村和司さんから教わったまさにその軌道
素晴らしいゴールでした。


幼い頃から常に向上心を持ち続け
身に付けた高い技術力が世界の舞台で花開き
初めて女子サッカーに触れた大勢のスポーツファンの胸にも
宮間あや」という名前が刻まれた瞬間でしたね。



宮間選手は日本女子サッカー界でも数少ないプロ選手の一人です。
プレーに集中できる生活環境を
「有難い」と感じてはいるもののプロであることへの固執はなく
「たとえアマチュア契約に戻ったとしても、私はサッカーさえ出来ればそれでいい」と語りますが


その言葉は本心を飾っているわけでも何でもなくて
そう言い切れる芯の強さ
チームや地元に対する想いを
ごく自然に感じさせてくれるのがあやちゃんなんだと思います。


千葉・幕張総合高2年生だった2001年に
岡山県北東部の美作町(現美作市)にクラブが誕生した時からのメンバーであり
夏休みにはプレーの傍ら、温泉旅館でアルバイトも経験。
卒業後、プロになるまでの6年間は
地元の体育協会でスポーツ指導員などを務めながらプレーを続け
2005年の国体ではラグビー会場の運営にも携わりました。


クラブと地元とのつながりの深まりも実感し
今では「環境面に何の不満もない」と言います。
ファンの声もW杯優勝でなでしこ人気が沸騰する以前からとても温かく
2005年のL1リーグ(現なでしこリーグ)最終戦に1−8で敗れた後
スタンドのお年寄りから
「また次、頑張れ」と励まされたことは今でも忘れていません。
だからこそ
「このチームでいつか優勝を味わいたい」と強く思っています。


今はまだ、湯郷ベルなでしこリーグで優勝を争えるレベルのチームではないことにも
「このチームで過ごす日々が国際試合で厳しい場面を迎えた時に生きると思う」
そう信じてロンドンオリンピックを目指し頑張っているあやちゃんです。


なでしこのキャプテン澤穂希から
「これまでもサッカーは楽しいと思っていたけど、宮間とのコンビはさらに楽しい!」
と最大級の賛辞をもらい
岡山の地とチームへの強い愛着
幼い頃から持ち続けている向上心も忘れず
何より
みんながそう呼んでくれる「サッカー小僧」の愛称そのままに
大好きなサッカーボールを追うことの出来る喜びを胸に
ロンドンでもチームの勝利に献身する宮間あやの姿があるはずです。


そして
どんなに素晴らしいプレーを見せたとしても
それについて聞かれれば
きっと
「みんなのおかげ」という言葉を口にするに違いありません、

宮間あや
「サッカーは一人じゃできない」ことを知っている選手だから。