伝説の名勝負・もう一つの早明戦

昼間の早明戦
74−10、大差のゲームとなり残念でした。

夜、もう一つの早明戦を見ました。
NHK.BSで放送された「伝説の名勝負・激闘の逆転劇」
1991年1月6日
全国大学ラグビー選手権決勝
国立競技場には6万人を越える大観衆、“鈴なり”という表現がありますが
最上段席から人が溢れんばかりの熱気が画面を通して伝わってきました。
スタンドには、当時89歳、お元気な明大・北島忠治監督の姿も見えています。



両校の主将、明治・吉田義人(現監督)、早稲田・堀越正巳(立正大監督)出演により
秘話も交えながら、試合を振り返る形で番組は進行されていきます。


この試合には伏線があり、約1ヶ月前の前年・12月2日
同じく国立競技場で行われた対抗戦・全勝対決にさかのぼります。
序盤から明治優勢の展開で進み、24−12
ところが試合終了直前、早稲田が初トライ、コンバーションも決まり24−18
当時はまだトライが4点の時代だったそうです(某・teacherから聞いてはいましたが実際には初めて見ました!)
さらにロスタイムに入ってから、早大今泉清選手の起死回生の70m独走トライ
難しい角度のコンバージョンも見事に決まって遂に同点!
ここでノーサイドの笛が鳴り、ガックリと肩を落とす明治、歓喜の表情を見せる早稲田の選手達
あまりにも対照的な同点引き分け・両校優勝という結末となったのです。


年が明け、1月6日・再び決戦の国立競技場へと舞台がととのいました。
この試合には、両主将をはじめ、明治には永友洋司、スーパー1年生と言われた元木由記雄選手
(元木選手は何度も好プレーがありましたが、終了直前の自らのキックミスを何とか挽回しようと
早稲田の最後のチャンスを身体を張った強烈なタックルでつぶすなど、相手堀越主将も絶賛のプレーを見せていました)


早稲田にも、堀越と共に1年生からレギュラーで活躍した今泉清、藤掛三男選手など
後に日本代表として活躍する選手達が出場していました。


ルール習得中の私が興味深かったのは、現在のルールとの違い。
トライが4点もそうですが、見ていて一番に気付くのがラインアウトの時に選手を下から持ち上げないということ。
選手はみな自力で伸び上がってボールを奪い合っていて、これが凄く新鮮に映りました。
持ち上げてもらって巨人と化すのも面白いけど、人間くさくてこれもいいなぁと思いました。
ボールを奪う確率も50/50だったそうですね。
他にも、ペナルティキックでタッチを割ってもマイボールにはならない、(これは今のルールを最初に覚えた時に、ちょっと変だと感じていたので昔のルールの方が納得できるかも)や、キックのやり方・・・
あとは、明治のSHの永友選手がやっていたパスをすると見せかけてしないフェイントをかけるようなプレーは、非紳士的プレーとして現在は禁止されているだとか、大きなことから細かいところまで少しずつルールが変化していったラグビーの歴史にちょっぴり触れた気がしました。
関係ないですが選手達のパンツの丈、ずいぶん短くてサイズ的にもピチピチだったんですね。
ヘアースタイルも独特、その時代の雰囲気が出ていました。


試合の方は、前半・明6−4早の互角の戦い
後半に入って逆転また逆転の展開から、26分、この試合のハイライトである明治吉田主将の執念の逆転トライが決まり
これが決勝点となり、16−13で明治の勝利。

確かに名勝負であったのでしょう。
ラグビー初心者の私が安易に語れるような次元のゲームではありません。

しかし、試合以上に興味深かったのが敗者のキャプテン堀越正巳さんのお話。
吉田主将の方は現チームにもこの時の映像を見せてチームを鼓舞したということですし
その後何度もこのゲームを見たであろうことが想像され、番組でも懐かしさの中に深い満足感を漂わせていました。


一方、堀越主将
あれ以来、一度も見たことがなく今回初めてこの試合の映像を見るとのこと。
それも驚きですが、見たくなかった悔しさが分かるような気がします。
自分が倒された場面、パスでミスをした場面、チームが上手くできなかった場面など次々と悔しそうに振り返っていました。
最後の吉田選手トライの時に、なぜ自分はあの場所に行けなかったのか・・という言葉に
改めて当時の無念の気持ちがよみがえっていたのかなと思います。
小柄な身体のSH、同じように素晴らしい球出し・鮮やかなパスワークといえば私の好きな秦一平君を思い浮かべますが
堀越さんは秦君とはまた違うプレースタイルを持った選手だったのではないかと見えました。
衰えぬ鋭い眼光に、当時の執念を垣間見た思いがします。


一ヶ月前の対抗戦、最後の2分で今泉清のトライを許した悔しさを胸に「前へ」進み
その瞬間に「キヨシッーーー!」と叫びながら飛び込んで行ったという吉田義人
「今でも、吉田のジャージの襟の感覚が指先に残っている」と振り返る、追いすがった今泉清
多分その感覚は一生忘れないで覚えているのでしょうね。
ずっと悔しいのでしょうか・・でも幸せですよね。



私が、この試合以上に見てみたいと興味を持ったのが
ハーフタイムで紹介されていた、1987年12月6日・国立競技場
「雪の早明戦」です。
雪は止んだものの、前日からの積雪で白く筋状に残るぬかるんだグラウンド
紫紺かエンジか区別もつかないくらいに泥んこになった選手達
組んだスクラムからは、選手達の熱い魂のような湯気が上がっていて
ほんの少し見ただけなのに「凄い!」と目を見張らされました。
吉田・堀越両主将が1年生で出場していたこの試合は、
8分間にも及ぶロスタイムの明治猛攻を必死のタックルで凌いだ早稲田が10−6で勝利しています。
番組では、「あと1メートル足らなかった明治」と紹介されていました。
機会があったら見てみようと思います。


「みんなの魂がグラウンドの中にいっぱいあった、絶対に勝つ、何が何でも勝つ!」という気持ちで戦った選手達。
OBたちが築いてきたものを継承し、伝えていく<伝統>の重み
また少し、ラグビーへの想いを深めた時間でした。